授業づくりのプロセス
♦ 授業づくりの順序
ほとんどの授業では、教えたい「内容」が決まっていますので、下の図のようにそこから授業づくりはスタートします。次にその「内容」を効率良く教えるために適した学習活動や教材を選びます。一通り教え終わると応用的な問題によって定着を図り、最後に教えた内容が適切に再現できるかどうかを確認して、定着度を測定します。測定結果が評価になります。
一方、学び研は、次の図のように授業を組み立てることを勧めます。まず、この授業によってどのような能力を育成したいのかを明確にするところから授業づくりを始めます。能力には「知識」と共に「態度」や「スキル」も含まれます。学生自身が自分の達成目標を作ることもあります。
次に目標を達成するための教育プログラムを設計し、具体的な学習活動を組み合わせて授業を構成します。どのような能力の育成がどの程度達成されたかを測定する評価活動も組み込みます。評価活動の結果は学習者にフィードバックするだけでなく、教育プログラムや学習活動を見直し変更を加えるためにも利用します。
♦ チームで授業づくり
図3は、教師が持つべき専門的知識(大島純,学習科学2004)を表します。この3つの知識、①教授学的な知識、②専門に関する知識、③学びについての認識論的知識は、授業づくりに必要な知識であるともいえます。
しかし、高専のような高等教育機関の工学を専門とする一般的な教員は②は大きいのですが、教育学を修めていない場合が多く、図4のようにバランスがとれていない傾向があります。
著者が訪ねたフィンランドのヘルシンキポリテクやデンマークのオルボー大学、オーフス大学では、技術者が教員となる例が多いようですが、教員として採用される際に②や③の知識を習得するシステムがありました。
日本の技術系の高等教育機関には、フィンランドやデンマークのような教員養成システムのありませんから、授業の質を高めるためには何らかの方法で、図5のように①と③の知識を強化してバランスの良い三角形にする必要があります。
一人の教員が①と③を習得する方法もありますが、現実的には①と③を担ってくれるスタッフとのティーム・ティーチングで授業づくりを行うのが良いのではないでしょうか。
一人ですべてを担当するよりも、①や③に長けた教員や技術職員、コーディネーター、地域の人材、企業の技術者など、多様な専門性や視点を有するスタッフと授業づくりを行った方が、授業の質は高まると考えます。
このような考えのもと、学び研では、授業の担当教員を中心としたチームを結成して授業づくりを行っています。授業づくりのチームは、教員、技術職員、教育技術センター員、産学連携コーディネーターなどで構成しています。教員1名と技術職員1名のチームもあれば、教員2名と技術職員5名からなるチームや、産学連携コーディネーターや企業の技術者がチームに加わっている例もあります。
いずれの場合も、①や③について学び合い丁寧に打ち合わせをすることによって、学生がどのようにどれくらい学んでいるかを多様な視点で観察し、授業の進行について検証を繰り返しながら改善や軌道修正を行うようにしています。